巻物語

意外な歴史や知られざるミステリー、昔話など、各地で語り継がれる物語を発掘

vol.03

2016.01.15

謎多き⁉石巻のお正月

これは、関西方面から石巻に移住してきたYさんからの投稿です。

「石巻で迎える初めてのお正月。

地元の人の家に遊びに行ったら、

不思議な飾りがいっぱいあってんけど!(汗)」

そこで今回は、石巻のお正月についてご紹介しましょう!

 

【謎の赤いぐるぐる】

まず、Yさんが初めて見たという

石巻のあるご家庭のお正月飾りをご覧ください。

(※飾り方や内容は各ご家庭によって異なります)

電子レンジの上に

ここにも

キッチンの片隅に

あそこにも

IMG_1770

洗面台にも!

 

「この赤いぐるぐる、なんやねん?」とYさん。

こちらのお宅では各部屋の入口やキッチン、

水場などのあちらこちらに、この飾りがあったそう。

また別のところでは、

恵比寿様などが描かれているバージョンもありました。

赤いぐるぐるが恵比寿様になっているバージョン

さらにお雑煮をごちそうになれば、

関西圏ではありえない組み合わせにビックリ。

IMG_1903

「なんでお雑煮と一緒に餡子餅が出てくんねん!」(Yさん)

これは宮城県の一部に残る風習。

石巻の中でも家によって異なりますが、

小豆餅は「最初に食べるもの」として

お正月のお雑煮と一緒に食すご家庭もあるとか。

 

とにかく驚くことしきりだったというYさん。

さらにトドメは、1月7日の夜に目撃したこの奇祭であります!

DSC_0548

ほとんど裸の男たちが突然!

DSC_0551

口に何かをくわえて!

DSC_0559

無言で立ち去っていきました(そして女子も発見!)

 

「なんでみんな裸やねん!!!!」(Yさん)

もちろん、Yさんは地元の人たちに説明を求めました。

しかし、みなさん

「なんでって言われても困るっちゃ。

だって昔っからこうなんだもん」

なぜかちょっと悲しそうに首を傾げてしまうため、

Yさんはそれ以上、

石巻の人たちを追及できなかったと言います。

 

【赤いぐるぐるは火の玉?】

そこで『ぼにぴん』がYさんに代わって調査しました!

まず、日本のお正月とは元旦に

1年の幸福をもたらす「年神様」(としがみさま)が、

各家庭に来てくださるというもの。

飾りつけは、「年神さま」に気持ちよく来ていただくため、

清浄を保つという意味あいがあります。

その内容は地方によってさまざまあり、

たとえば石巻地方ではこんな感じに仕上がっているわけです。

ジャーン!

蛤浜にある古民家カフェ『はまぐり堂』の正月飾り

牡鹿半島の蛤浜にある古民家カフェ『はまぐり堂』の正月飾り

 

関西出身のYさんが初めて見たという

赤いぐるぐるや恵比寿様、大黒様などが描かれた紙は

石巻地方ではポピュラーなアイテム。

神棚に3枚、各部屋に1枚など、家によって多少の違いはあるものの、

石巻人にとっては「これぞ、お正月」の風景なのであります。

 

ちなみに赤いぐるぐるは

「星の玉(ほしのたま)」または「星玉(ほしだま)」と呼ばれ、

その正体は「火の玉」(勢いよく栄えるように)や

「宝玉」(仏像が持っている玉)などと諸説あります。

また、左側に緑色で描かれているのは、

昆布かと思いきや実は、

腰が曲がる=長寿を意味する縁起物のエビ。

ほかにも、松竹梅などさまざまな縁起物が描かれるパターンもあります。

 

【もう、芸術の域の切り子】

さらにご注目いただきたいのは、

真ん中の神棚に飾られている白い網のような飾りです。11237922_479915445550615_3834450175474081457_n

こちらは、すべての神社ではありませんが、

宮城県下で神職の方々が毎年、手作りするという「きりこ」と呼ばれる切紙。

特に石巻のように漁業が盛んな沿岸部では、

魚や投網に見立てた「きりこ」が主流です。

その他、地域によってその土地のなりわいや神様の名前などを

図案化したさまざまな「きりこ」が存在。

これを型に合わせてひとつひとつ、

白い紙をカッターナイフなどで切り込んでいくのです。

DSC_0692

『祈りのかたちー宮城の正月飾り』(宮城県神社庁発行)より

 

そう。

宮城の神主さんは大変だ

と心に刻んでおいてください。

 

【14日が7日になった石巻のどんと祭】

これらの飾りは、お正月の終わりに神社の境内などで火にくべて、

一年間の無病息災を祈ります。

宮城県ではこれをどんと祭と言い、

通常は小正月の前日の1月14日夕方から行われます。

 

ただし石巻のどんと祭は、1月7日に行われるのがメジャー。

これは、1970年代に興った「新生活運動」(※)をきっかけに

「小正月」(1月15日)の前夜ではなく、

門松を置く期間の「松の内」(1月7日)に前倒ししたのが定着した結果。

もちろん、この変更をよしとせず、

石巻でも本来の14日にどんと祭を行う神社もあります。

(※)「合理的民主的な生活慣習の確立」を謳った運動

北上川沿いで行われる住吉神社のどんど祭

今年も7日に行われた旧北上川沿いにある住吉神社のどんと祭

 

【若者の参加者が増える裸参り】

そして、どんと祭とセットなのが、

Yさんが目撃した御神火を目指して参拝する「裸参り」です。

もっとも盛大に行われる仙台の大崎八幡宮によると、

裸参りは江戸時代、厳冬期に仕込みに入る杜氏(とうじ)が、

醸造の安全や吟醸を祈って参拝したのが始まり。

水をかぶって体を清め、隊列を組んでゆっくりと歩き、

行きも帰りも私語を慎むために「含み紙」をくわえるなど、

伝統の形が守られています。

DSC_0549

石巻での歴史は浅く、盛り上がりはじめたのはここ10年ほど

 

 

東北地方全般に言えることですが、

大漁、五穀豊穣と食に関する祈りがメインのお正月。

特に広大な面積を持つ石巻には、

漁業がさかんな沿岸部と農業がさかんな内陸部とでも、

まったく異なる文化があり、

地域ごとにユニークかつ個性的な風習が色濃く残っています。

「つまり石巻のお正月は、

日本の食を支える人たちの祈りの結集やね」とYさん。

あなたも一度、

石巻のお正月を体験してみてはいかが?

 

取材協力:羽黒山鳥屋神社

参考文献:『祈りのかたちー宮城の正月飾り』、『ごっつぉうさんー伝えたい宮城の郷土食』、『宮城の冠婚葬祭』

巻物語