巻物語

意外な歴史や知られざるミステリー、昔話など、各地で語り継がれる物語を発掘

vol.5

2016.06.16

美しい故郷の誇り、べっこうしじみを守る

岩手県岩手町の弓弭の泉(ゆはずのいずみ)を源水とし、

北から南へ、最後は宮城県石巻市の追波湾(おっぱわん)に流れ込む東北最大の北上川。

海水と淡水が混ざり合う河口付近では、ヤマトシジミが生息。

美しいべっ甲色の貝殻は別名『べっこうしじみ』と呼ばれ、

希少価値が高い石巻の特産品として珍重されてきました。

べっこう色のツヤと縞模様が美しいべっこうしじみ(ヤマトシジミ)

べっこう色のツヤと縞模様が美しいべっこうしじみ(ヤマトシジミ)、春から夏が旬。栄養豊富なしじみとして市場価値も高い

 

川沿いには、水質を浄化する作用がある葦が生い茂り、

その澄んだ水の中で繁殖したべっこうしじみは、

雑味のない深い味わいで、一度食べたら忘れられないと評判。

しかし、東日本大震災では生息に適した砂地が津波で押し流され、ほとんど死滅。

伝統のしじみ漁は危機に瀕してしまいました。

 

漁師たちは復活に向け、

2012年8月から他県で購入してきたヤマトシジミの稚貝を放流。

これまでに合計100トンを放流したものの、最初の約20トンは翌日に窒息死。

津波で海水が入りすぎ、塩分濃度が高まったことが原因と言われています。

ヨシ原

リンや窒素を吸収し、水質を浄化する作用がある震災前の葦原の風景。しかしこの美しい風景も、津波の影響で多くが失われてしまった

 

【震災後に生まれた新しい命に期待】

「それでも少しづつ、回復の兆しがある」と語るのは、

しじみ漁師歴46年の池田直優(なおゆき)さん(70歳)。

2014年に漁を再開以降、まだ水揚げ量は少ないものの、

震災後に新しく生まれたべっこうしじみに、大きな期待を寄せています。

「人工的に放流したしじみの殻は黒と黄色のツートンカラーでしたが、

それよりも小さくて、全身べっこう色をした稚貝が見つかった。

この北上川生まれの稚貝が成長して卵を産んでくれたら、

べっこうしじみは必ず復活するでしょう」

しじみ漁師歴46年の池田直優さん

しじみ漁歴46年の池田直優さん(70歳)

 

老舗のしじみ問屋を家族で経営する池田さんは、

自宅兼加工場のすぐ裏にある北上川へ毎朝5時に出船。

この地区では震災前、6艘のしじみ漁船が操業していましたが、

現在は2艘に減ってしまいました。

DSC_0193 (3)

とりすぎを防ぐため、現在漁は、朝5時から11時前の午前中のみと決めている

船尾に備えた鉄のかごを川底に落とし、船で引っ張ってしじみが生息する砂地をさらっていく

船尾に備えた鉄のかごを川底に落とし、船で引っ張ってしじみが生息する砂地をさらっていく

 

DSC_0174 (3)

この日とれたべっこうしじみは2艘分で30㎏。震災前の半分から3分の1だ

 

DSC_0258 (1)

北上川にはまだ震災時の瓦礫がたくさん。そのため、漁師たちは船着き場や航路なども変更せざるをえなかった。「片づけなければ、と思いながら人手がなくて放置が続いてる」と池田さん

 

【澄んだ味を守る砂抜きの技術】

しじみ自体の質もさることながら、食味を決めるのはその砂抜きの技術。

「いくらおいしいしじみでも、

口の中でジャリッとした瞬間、嫌になってしまうでしょう」と池田さん。

加工場での砂抜き作業は、奥さまが担当。

殻が割れたり、少しでも欠けていると砂が完全に抜けないため、

最初にゴミや不良のしじみを取り除くのが重要というが、

その選別方法は「目で見て、耳で音を聞いて、鼻で匂いをかぐ」というから驚きます。

川からとってきたばかりのしじみ

川からとってきたばかりの砂抜き前のしじみ

 

DSC_0284

水からあげ、まずは目で見て不良の貝をチェック

DSC_0377

殻をすり合わせるように振って、音を聞く。不良のしじみが混ざっていると微妙に音が違うのだとか

DSC_0371

最後は匂い。死んだものや弱っているしじみは、独特の匂いがするとか

 

殻が割れたしじみは砂が抜けないため、販売はしまい。家族で汁などにしてありがたくいただくという

殻が割れたしじみは砂が抜けないため、販売はせず、家族で汁などにしてありがたくいただく

 

DSC_0399

不良の貝を取り除いたら、屋外の水槽で酸素を入れた水の中に一昼夜。これで完全に砂が抜ける

 

【こんなの食べたことない!メインディッシュになる本物の味】

大自然に恵まれ、一年中豊富な作物や海産物が手に入る石巻。

それでも、大河の幸『べっこうしじみ』は別格!と楽しみにしている人は多いもの。

食べ方は、味噌汁が定番だけど、

大粒で味が濃厚なべっこうしじみは、主菜としても最適。

池田さん一押しの食べ方は、バターでの酒蒸しです。

DSC_0876

熱したフライパンにバターをひとかけ、すぐにべっこうしじみを投入します

 

フライパンを揺らしてバターがなじんだら、お酒を適量

フライパンを揺らしてバターがなじんだら、お酒を適量

 

DSC_0313

塩こしょうで味付けし、蓋をして蒸します

 

蓋をして1~2分蒸します

完全に貝が開くまで、1~2分

 

完全に貝が開いたらフタをとり、お好みでネギまたはニンニクのみじん切りを投入

貝の口が開いたらフタをとり、お好みでネギやニンニクのみじん切りを投入

 

軽くかき混ぜて全体がなじんだら、皿に持って完成。ひと粒づつ、指でつまんで身を食べるのがオツ

軽くかき混ぜて全体がなじんだら、皿に盛って完成。ひと粒づつ、指でつまんで身を食べるのがオツです

 

さらに半分ほど残してお湯をそそぐと絶品スープに早変わり!

半分ほど残してお湯をそそぐと絶品スープに早変わり

 

DSC_0340

一度飲んだら忘れられない濃厚スープ。途中で醤油を数滴たらすと、また違った風味を楽しめます

 

6月~11月は生、それ以外の季節は冷凍したものを販売

6月~11月は生、それ以外の季節には冷凍したものを販売

 

東日本大震災以前にも、度重なる水害に見舞われてきた石巻。

その反面、大自然からの恵みは大きく、感謝を忘れず共生してきた人々がいます。

守り継がれるべっこうしじみの美味しさは、その努力と感謝の結晶かも。

美しいふるさとならではの特産品、

けして忘れてはいけませんね。

 

取材協力/株式会社池田屋

986-0102 宮城県石巻市成田字小塚168-1

TEL:0225-62-2236

※北上川のべっこうしじみをはじめ、ホヤ、わかめ、昆布も販売。一般の方でも直接購入可。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巻物語