移住しちゃう?

石巻への移住を考える人へのヒント集

vol.4

2016.02.01

石巻でどう働く?①ー天野美紀さん(フリー建築士)の場合

移住を考える時、多くの人にとって

「どうやって食べていくか」は最大課題のひとつでしょう。

そこで、先輩移住者たちの働き方をリサーチ!

トップバッターは、

フリーで設計の仕事をしながら石巻で暮らす

天野美紀さん(37歳)のライフスタイルをご紹介します。

 

埼玉県出身。東京で建築士として独立後、2014 年に石巻へ移住した天野美紀さん

2014年9月に東京から石巻へ移住した天野美紀さん(37歳)。愛犬「おこげさん」と一緒に古い一軒家で暮らしている

 

【東京で建築士として独立】

建築関係の専門学校卒業後、

大手建設会社や設計事務所でキャリアを積み、

2010年には、都内で建築士として独立していた天野さん。

代表的な仕事のひとつは、

下町にある古い8棟の木造家屋をリノベーションし、

昔ながらの温かみあるコミュニティづくりを実現した『大森ロッヂ』。

設計を担当した天野さん自身も管理人として住み込んでいた。

住民どうしの顔が見える昔ながらの長屋ぐらしをヒントにした『大森ロッヂ』

 

若き女性建築士として講演会にも呼ばれるほどの話題に

若き女性建築士として講演会にも呼ばれるほどの話題に

 

そんな天野さんと石巻の出会いは、

震災から2カ月後の2011年5月。

建築関係の仲間たちで

被災地にトレーラーハウスを届けるという活動の立ち上げに関わり、

現地でニーズを調べることになった。

その時、真っ先に連絡をくれたのが、

先に石巻入りしていた天野さんの友人だ。

「ボランティアたちの宿泊所がない、という現実を伝えてきてくれました。

それで、自分の目で状況を見に行こうと石巻へ。

すると当然ながら、

被災店舗の泥だしや片づけ、掃除などの仕事が山ほどありました。

街の人が楽しめる居場所づくりやイベントなどを企画し始めた団体もあり、

これなら私も役立てる!と、その後は隔週で石巻に通い、

ボランティアを続けることとなりました」

この時、彼女が建築や内装に関わった場所のいくつかは、

今でも石巻のあちこちで利用されている。

建築士としての技術を生かし、お店やコミュニティスペースなどの内装工事を指揮

建築士としての技術を生かし、店舗やコミュニティスペースなどの内装工事をDIYで積極的に引き受けた

 

【ボランティアから移住者へ】

その後は、もともとあるものを直すだけではなく、

自分でも街の賑わいのひとつを作りたいと

石巻で築100年の空き家を借り上げ、手作りで工事。

東京で建築士の仕事を続けながら、

天野さんは毎週末、高速バスに乗って石巻に通い、

週末限定のカフェ経営をスタートした。

土日のみ、朝6時30分から朝食を出すのがウリの『日和キッチン』。

これは、早朝に到着する高速バスを利用して石巻に来るボランティアのため、

休む場所を作りたいという、天野さんの思いを実現したものだ。

「でも、飲食店での勤務経験もなく、

自分が不在がちなためスタッフ任せになる部分が多いうえ、

2年目の夏を過ぎた頃には、主要なお客様だった

ボランティアで訪れる人たちも減って、徐々に売上は下降。

これ以上続けるなら、自分が日和キッチンにもっと専念して、

テコ入れしなきゃだめだと痛感するようになりました。

毎週東京から通う生活に、体力的にも限界を感じていたし、

東京で長く関わってきた大きな仕事も終わったタイミング。

もう移り住むしかない!という感じで、

不思議と不安はありませんでしたね」

 

【愛犬、仕事、ご近所づきあい…すべてがバランスいい生活】

移住後も、生活を支える収入源は、

ボランティア時代に知り合った団体や大家さんから

直接、もらえるようになってきた設計の仕事。

特に復興が進む現場では店舗や住居の再建が多く、

建築の技術が求められる場面は多いという。

「ただし、いきなり来てフリーでやります!と言っても難しい。

まだまだ地方では、設計から工事までを施工会社に一任するケースが多く、

多少、割高に感じられてもデザインにこだわり、

フリーランスの設計士に頼みたいという人は少ないのが現状です。

私の場合も、ボランティアで通った3年半があったからこそ。

街のみなさんとの信頼関係を築く中で、

クチコミでいただける仕事が増えてきたという感じです」

自宅で設計の仕事をする

平日のほとんどは、打ち合わせや事務所兼住居の自宅で設計図を描いている

 

また、自分が住む物件も、顔見知りの大家さんから、

直接空き家を借りることができた。

こちらも築数十年という古い木造建築だが、

天野さんの手にかかれば、雰囲気たっぷりの居心地いい空間に。

こちらも築数十年という古い木造の2階建て。住居兼事務所として

2階建ての一軒家。1階には部屋が2つと風呂とトイレ。2階には仕事場のほかに寝室と客間とキッチンが

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震災後、空き屋の情報はなかなか得にくいのが現状。「物件探しはとにかく来て、現地でいろんな人に聞くのが一番」

 

さらに、「今の生活を気に入っている大きな要素は愛犬の存在」と話す天野さん。

「おこげさん」はペット禁止の復興住宅に入居が決まった知人からひきとったワンちゃん。

散歩に出るたび、街の人から声を掛けられる人気者で、

犬好きのコミュニティという新しい輪も広がった。

都会では難しい一軒家での犬との暮らしは、

心身ともに癒されることが多いという。

犬と暮らし始めて夜の外出が減り、運動する時間が増えた

犬と暮らし始めて夜遅くまでの外出が減り、運動する時間が増えたのも嬉しい変化。「7㎏ぐらい痩せましたよ」

 

ボランティア時代からお世話になった地元の方との交流は、移住後もさmざまな場面で支えになっている

ボランティア時代からお世話になった地元の方との交流は、移住後もさまざまな場面で支えになっている

 

【カフェ経営という個人的CSR活動を続けて】

ただし、石巻では建築士としてよりも今や

『日和キッチン』のオーナーとしてよく知られるようになった天野さん。

大正時代の建物を自ら工事してリノベーションした『日和キッチン』

大正時代の建物を自ら工事してリノベーションした『日和キッチン』

 

週末限定とはいえ、カフェの設立にかかった費用は約300万円。

そのうち200万円は助成金でまかなえたが残りの100万円は自費を投じるなど、

経済的な負担が少なかったわけではない。

「移住後は、自分で店に立ち人件費を節約するなどして、

やっと最近、赤字を脱出したという程度で、

カフェの売上だけでは、とても生活できません。

つまりカフェ経営は、趣味というか個人的CSR活動(社会貢献活動)ですね。

でも、街の人との信頼関係や人との出会い、新たなコミュニティなど

お金よりもずっと大きなものを得ていると思います」

今なお早朝、石巻に着く高速バスを降りたらすぐ、

『日和キッチン』に顔を出してくれる顔なじみは多く、

地元でも、休日の朝ごはんを楽しみに通う常連さんが増えてきた。

土日のオープン時には地元の人やボランティア、移住者たちの情報交換の場にもなっている

土日のオープン時には地元の人やボランティア、移住者たちの情報交換の場にもなっている

 

最近も『日和キッチン』がクローズしている平日を利用して、

石巻で起業を目指す人に場を提供しようと

『日替わりオーナー制度』というユニークな企画を始めて話題になった天野さん。

彼女を見ていると、強い思いと行動しだいで

豊かな人とのつながりをいくらでも生み出せるのが、

石巻で暮らすことの大きな魅力のひとつだと感じる。

 

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