我ら、ぼにぴん人

石巻で新しいコトを始めたり、これから始めようとする人たちのスピリッツをご紹介。

vol.01

2015.11.27

『農地、人材を再活用し、みんなに“いいこと”がめぐる仕組みを』佐藤仁美さん

今や日本中に存在し、
悩みの種とも言われる「耕作放棄地」。
農業者の高齢化や後継者不足などで
手をかけられない田畑は、
草が生い茂り、
荒地となったまま
放置されていることが少なくありません。

そんな「耕作放棄地」を復旧させ、
採れた野菜でスイーツを作って販売するという
新事業を立ち上げた佐藤仁美さん(55歳)。
地元に雇用も生んでいる、
その仕組みについて尋ねました。

佐藤仁美さん(男性)と奥様(右)。 小さな子どもがいて働くのが難しい若いママなどを雇用し、事業を立ちあげた

佐藤仁美さん(男性)と奥様(右)。
小さな子どもがいて働くのが難しい若いママなどを雇用し、事業を立ちあげた

作った野菜をスイーツに加工して販売作った野菜をスイーツに加工して販売

作った野菜をスイーツに加工して販売。まさに、6次産業化の取組み

 

農地は日本の宝
震災前からの荒地を復旧させたい

うちは代々農家ですが、
私自身は長く
不動産関係のサラリーマンをしていました。
しかし、親が高齢になってきたのと
会議ばかりの仕事に疑問を抱いたこともあり、
50代を前にして農家への転身を決意。
といっても当初は、
十三浜という地域の荒れた農地を整備して、
みんなで楽しく畑をやりましょうという
『市民農園』の管理がメイン。
自分では、
家業の米作りなどを少しずつやっていけばいいかな、
という程度でした。

ところがすぐに、
東日本大震災が起きてしまった。
石巻の人々は、生きるのに精いっぱい。
自分がやっている農地も、
趣味の「お楽しみ農園」ではすまされないという、
そんな気持ちになってきました。
やっぱり、ちゃんと農業をやらなくては。
農地を拡大し、
復興の担い手になっていかなければいけない
と感じたんです。

そこで、自然と目に入ってきたのが、
何十年も放置されてきた耕作地でした。
子どもの頃から話には聞いていましたが、
いざ自分が農地を借りようとすると、
こんなに荒地が多いのかと愕然。
農地は日本の宝だというのに、
荒地のまま放っておくのはもったいない。
震災からの復興だけでなく、
震災前から放置されてきた農地も
一緒に復旧させよう、
そんな風に考えました。

放棄耕作地の様子を語る佐藤さん。こんな荒地が全国に存在する

放棄耕作地の様子を語る佐藤さん。こんな荒地が全国に存在する

 

子育て中や定年退職者など
短時間でも働ける雇用体制を

もちろん自分ひとりでは無理。
そこで周りを見てみると、
子どもが小さくて働く時間が限られる
若いお母さんや
高齢で定年退職したけれど、
まだ働けるという人たちが
たくさんいました。
こういう人々を雇用して、
チームを結成。
気候や天気には左右されるものの、
晴れてさえいれば、
農業は自分の都合で
スケジュールを組むことができます。
短時間しか働けない人たちがチームを組むことで、
隙間を補うことができ、
ひとつの畑をみんなで作ることが
可能になりました。

その様子を見ていて、
ほかの地権者さんから
「うちの農地も復旧させてほしい」
などの声が掛かるようになり、
また「自分もやってみたい」という
働き手が自然と集まってくるようになりました。
しかし、農業が暇になる真冬には、
せっかく集まった人たちの仕事も
なくなってしまいます。
そこで、畑でとれた多種多様な野菜を使って
何かできないかと考えた。
それが、スイーツを作って販売するという
アイデアが出たきっかけでした。

 

スイーツブランドを立ち上げ
6次産業化を目指して!

もともとは整備のために始めた畑。
みんなが作りたいものを自由に作って、
いろんな野菜ができていました。
それらをじーっと眺めて、
試行錯誤した結果、
ケーキや焼き菓子、ジャムなど
15種類ほどのスイーツが誕生しました。

まだ販売はしておらず、
試作段階ではありますが、
9月に開催されたサイクリングイベント
「ツール・ド・東北」では、
ライダーのみなさんにパウンドケーキを配布して
喜んでいただくなど、
着々と手ごたえを感じ始めています。
ブランドコンセプトやデザイン、
事業計画なども、
専門家の支援を受けながら着手。
試食してもらうたび、
おいしいと言っていただき、
「スイーツにする前の野菜を譲ってほしい」などという声も
聞こえてくるようになりました。

5つのコースを自転車で走るイベント『ツール・ド・東北』休憩所で配った減農薬野菜のパウンドケーキ

5つのコースを自転車で走るイベント『ツール・ド・東北』。
休憩所で配った減農薬野菜のパウンドケーキはライダー達にも大好評だった

お菓子が売れるようになれば、
農業ができない時期でも収入があり、
また、働きたいけど土いじりはちょっと…という人にも、
製菓や販売などほかの分野で活躍する場が生まれます。
自分たちで作った野菜だから安心だし、
すべて手作りなので、
食べる人のニーズに合わせて
甘さの加減や材料の選定もできるようになります。
農地と人材を再活用でき、
市場には安全でヘルシーなスイーツを
提供することができる。
この事業をぜひ成立させなければ、
と考えています。

さらにその先では、
一般の人々に向けた「正しい農薬の使い方」や
「耕運機の使い方」などの
農業講習会も行っていきたいですね。
今や農業は家庭菜園の延長線上にあり、
ホームセンターなどでも
気軽に農薬や農機具が手に入る時代。
知識のない人が使うのは、
とても危険だと感じています。
趣味で農業をやる人が増えたからこそ、
正しい知識が必須。
農地と人材の再活用から始まった
ベジスイーツブランドで、
将来的には農業者の育成にも
つながる活動ができたらいいな、
と思っています。

ブランド名は『ラルジュ・ラッシュ』。 こちらは、市の支援窓口を通じてプロのデザイナーが作成したロゴデザイン案

ブランド名は『ラルジュ・ラッシュ』。
こちらは、市の支援窓口を通じてプロのデザイナーが作成したロゴデザイン案

佐藤さんと一緒に農業を始めた奥様(写真中央)が、中心となって商品開発をすすめている。今後はコロッケやお惣菜などの販売も検討中

佐藤さんと一緒に農業を始めた奥様(写真中央)が、中心となって商品開発をすすめている。今後はコロッケやお惣菜などの販売も検討中

今月のぼにぴん人

佐藤仁美さん(55歳)

1960年生まれ。石巻商業高等学校・情報処理科でプログラミングを学び、卒業後は経理の専門学校へ。その後、金融関係の会社に就職し、38歳の時に不動産関係へ転職。50歳を境に会社を辞め、専業農家に転身した。2015年、スイーツブランド『ラルジュ・ラッシュ』を立ち上げる。

我ら、ぼにぴん人